(96)九段下・耳袋 其のじゅうろく

[2020/11/7]

今週は私の手許に届いた手紙やメールを紹介します。

写真集『骨の髄』の受賞

甲斐啓二郎さんから「さがみはら写真賞」を受賞した、情報も解禁になったよ、とのメールをいただいた。
「さがみはら写真賞」は2001年から神奈川県相模原市が主催する賞だ。過去の受賞者には、桑原史成、鬼海弘雄(1945〜2020)、長倉洋海、石川直樹、石川真生などの各氏が並ぶ。そしてあの中野正貴さんも2008年に『MY LOST AMERICA』(リトルモア、2007)で受賞している。
しかし、コロナ禍のため、2020年の受賞展、受賞式、関連イベントは、すべて2021年10月に延期された。甲斐さん、おめでとうございます。

平嶋彰彦ポートフォリオ『東京ラビリンス』

東京・本駒込のギャラリー「ときの忘れもの」の綿貫さんから、「平嶋彰彦ポートフォリオ『東京ラビリンス』」の企画展(2020年11月6日〜11月28日)の案内状とオリジナルプリント15点の販売のお知らせが届いた。同封されているパンフには、「東京下町の私的体験」(平嶋彰彦)と「東京上空に浮遊する幻の町」(大竹昭子)のふたつの文章が載っている。
この『東京ラビリンス』に選ばれた写真15点は、1986年刊行の『昭和二十年東京地図』(写真=平嶋彰彦、文=西井一夫、装丁=鈴木一誌、筑摩書房)に収録されている作品からだ。
初出は『毎日グラフ』での十二回連載で、撮影時期は1985年9月から翌年86年2月までだという。企画のきっかけは、『コンサイス東京都35区区分地図帖:戦災消失区域表示』(1946年9月15日、日本地図発行)が東京大空襲40年後の1985年3月10日に復刻出版(日地出版)されたことである。この地図帖を手に、西井と平嶋は東京を歩きまわる(平嶋「東京下町の私的体験」より)。「戦前と戦後の断絶と連鎖の断片をつむぎつつ、いま40年を経て東京の町を歩いてみる。戦前の記憶をとどめる建物・景観の写真と文章でつづるもう一つの東京論。」(筑摩書房のサイトから)

さて今回の15点の写真の中には私自身にとっても、なつかしい場所(トポス)がある。

6.新宿三丁目 御大典広場の飲食店
8.宇田川町 カクテルバー門
14.代官山町 同潤会アパート

6.は新宿南口の「昭和天皇即位記念碑」のあった小山の下にあった飲み屋。たしか手荷物の一時預かり所もあり、登山客にも馴染みの場所だった。この広場の右横の階段を下がると左手に「台北飯店」があった。1970年代、出版社に勤め出した私は先輩社員と毎晩のように飲み歩いた場所だ。ちょうど台北飯店の反対側にあった大村医院の「婦人科・性病科」の大きな看板の文字を今でもまざまざと思い出す。このあたり現在は新宿駅の東南口広場となって跡形もない。面白いことには、中野正貴が15年後の2000年にこの場所を撮影している(『TOKYO NOBODY』)。
8.の「カクテルバー門」。お店の正式名称は「渋谷門」(しぶや・もん)。センター街を抜けNHKへと続く宇田川の暗渠を進むと左側にあった。このバー、今も健在で1949年(昭和24)の創業だという。
14.の代官山の同潤会アパート。実は私は1980年代にここの1室に住んでいたことがある。10年勤めた出版社を辞め、知り合いの写真家の一部屋を借りて暮らし始めたのだ。この代官山同潤会アパートの中にあった「代官山食堂」や銭湯「文化湯」にはよく通ったものだ。
平嶋さんの『昭和二十年東京地図』をみると、どうしても桑原甲子雄(くわばら・きねお1913〜2007)の『東京昭和十一年――桑原甲子雄写真集』(装丁=平野甲賀、晶文社、1974)を思い出す。そして『昭和二十年東京地図』の文章を書いた西井一夫(1946〜2001)の亡き後、2013年に毎日新聞社から『私的昭和史 桑原甲子雄写真集 上巻 東京戦前編』『私的昭和史 桑原甲子雄写真集 下巻 満州紀行 東京戦後編』(編者=伊藤慎一・平嶋彰彦、ブック・デザイン=鈴木一誌)が出版されている。

『未来へ 原爆の図丸木美術館学芸員作業日誌2011―2016』刊行記念トーク

神田神保町の美学校で行われる、岡村幸宣さんの新刊刊行記念のトークの詳細な内容が発表された。 そして11月2日、美学校の事務局の木村奈緒さんがイベント用にと書籍『未来へ』を新宿書房まで取りに来られた。
開催日は11月27日(金)の19時から20時30分まで。登壇者は岡村幸宣、福住廉(聞き手)、後藤秀聖(司会)。トークの形式はZOOMによるオンライン配信だ。参加費は視聴チケットのほか、視聴+書籍『未来へ』チケットもあるのは、版元としてもほんとうに嬉しい。どうか、みなさん、どんどん申し込んでいただきたい。
この日、木村奈緒さんから、美学校の校史ともいえる『美学校1969−2019自由と実験のアカデメイア』(美学校編、晶文社、2019)という本をいただいた。この「美学校」 のロゴデザインは開校から講師を務めていた赤瀬川原平(1937〜2014)の手になる。

そういえば、前回の本コラムに登場した室野井洋子(むろのい・ようこ1958〜2017)さん。
彼女は亡くなるまで、ここ美学校で「踊る身体――室野井洋子のダンスワークショップ」の講座を持っていた。
https://bigakko.jp/course_guide/aess/dance_info
https://bigakko.jp/event/2017/muronoi