(95) 室野井洋子と岡村幸宣
[2020/10/30]

「室野井洋子 ダンサーは消える ダンス1983―2017」

先日、札幌のザリガニヤ/高橋幾郎さんから郵便物が到着した。中にあった小さな手紙にはこう書いてあった。
「ギャラリー犬養の企画で室野井さんの踊りを100分ほどのDVDにまとめ、上映会を行いました。よろしければご覧ください。

封筒の中には、DVD1枚と[室野井洋子DVD「ダンサーは消える」]の収録映像のリストが入っていた。さっそく見てみる。DVDの中には、1983年から2016年までの踊りの写真と動画が収録されている。中野/テレプシコール、田端/ディー・プラッツ、武蔵小金井/アートランド・・・・。私は室野井さんの踊りを見に行った日と場所を思い出す。公演のタイトルを拾うと、前半は「くらい手あかるい手」が目につき、後半になると「あの世のできごと」が多い。最後に収録されている2017年6月23日の「あの世のできごと」(札幌/ギャラリー犬養)。この日からおよそ10日後の7月3日に彼女は亡くなっている。
室野井洋子さんの著書『ダンサーは消える』(2018年10月刊)の巻末に収録されている「公演歴」(p188〜p205)。ここには193回のソロ、コラボレーション、出演の事項が記録されている。今回のDVDは、これらから45回の公演が選ばれて収録されていることがわかる。
室野井さんの踊りは動かない。いつまでも動かない。彼女のことばは語る。

「舞踊は見る人の視線によって生じる。・・・
舞踊は見る人がつくる。・・・
そして舞い踊る人は視線によって
舞踊をみいだされるところのものになる。・・・
―――――『ダンサーは消える』より

『未来へ・・・』をめぐる二つの催し
岡村幸宣さんから、『原爆の図 丸木美術館ニュース』(10月15日、第143号)が送られてきた。まったくの私立の丸木美術館も新型コロナウイルス感染拡大の影響により、自主的に4月9日から6月8日までの2ヶ月間、臨時休館した。しかし、うれしい報告もあった。オンライン寄付サイトを立ち上げた。その「緊急支援」には6月末の締め切り後も入金が続き、9月13日現在で4986件、6854万159円が集まったという。都幾川のほとりにある、この小さな美術館は生き延びることがとりあえずできた。
岡村幸宣さんの新刊『未来へ 原爆の図丸木美術館学芸員作業日誌2011―2016』を出版したのは、今年3月10日だ。しかし、新型コロナウイルス感染のため、小さな出版を祝う会もできずに、あっという間に半年が過ぎてしまった。しかし、ここにきて二つの催しが計画されている。
まず、11月27日(金)に東京・神田神保町にある美学校で行われる、『未来へ・・・』刊行記念トークだ。登壇者は著者の岡村幸宣さんと福住廉さん(美術評論家)、司会進行は後藤秀聖さん(日本画家・丸木美術館特任研究員)だ。詳細は美学校のサイトの告知を待ちたい。後藤さんは、最新の『丸木美術館ニュース』に、「丸木夫妻の作品を未来に伝える――保存修復の必要性」という文を寄稿している。

もう一つは、12月19日(土)に開かれる原爆文学研究会第62回の研究会だ。
この日の研究会の「合評会」の部では、岡村さんの『未来へ 原爆の図丸木美術館学芸員作業日誌2011―2016』が取り上げられる。書評担当は柿木伸之(かきぎ・のぶゆき)さんと水溜真由美(みずたまり・まゆみ)さん、応答は岡村幸宣さんとなっている。ベンヤミン研究家の柿木伸之さん(広島市立大学教授)と、「サークル村」研究家の水溜真由美さん(北海道大学教授)の書評。はたしておふたりはどんなコメントをされるのか、とても楽しみだ。

室野井洋子さんと岡村幸宣さんは実はある本で結ばれている。室野井さんは1982年から30年間以上にわたり、新宿書房の編集・校正の仕事に関わってくれた。室野井さんは、岡村さんが2015年10月に刊行した『《原爆の図》全国巡回――占領下、100万人が観た!』(2016年、第22回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞受賞)の編集・校正を担当してくれたのだ。
『未来へ・・・』の作業日誌「2015年 10月30日 川越」(p241)には、『《原爆の図》全国巡回』の見本がこの日にできたことが記されている。「当初は夏の刊行を目ざしたが、資料の確認や校正作業に予想外に手間取り、秋までずれ込んでしまった。」まさに室野井さんの粘りが光った。そして、それに岡村さんがこたえてくれた。

*本コラム(4)「追悼 室野井洋子」と宇江敏勝著『熊野木遣節』(2017)の月報「追悼 編集人、室野井洋子」(宇江敏勝)を参照。