(94)あめや廃業宣言
[2020/10/24]

毎月1日に発行される『大道芸アジア月報』(発行:浅草雑芸団、編集人:上島敏昭)の10月号が送られてきた。
「大道芸案内」「今月の大道芸案内」をみると、新型コロナウイルス蔓延のため、今月号でも依然として中止・延期の告知が続く。しかし、開催スポットにもよるが、少しずつ再開し始めてきたところもあるという。だが、「オンライン配信(有料)」や「観覧は県内在住者限定」という文字が目に突き刺さる。もはや投げ銭を用意する路上芸能からほど遠い世界になっているのだ。
毎年10月に名古屋の大須観音界隈で行われる「大須大道町人祭」は、今年で43回目を迎えるが、やはり中止となった。
コロナ禍は、東京の祭りを代表する三社祭(浅草神社)も直撃する。例年、5月中旬に行われる三社祭は5ヶ月延期され、10月17日、18日の2日間に開催された。なんと、地元紙『東京新聞』の10月19日の朝刊の見出しには、「担ぎ手はトラック 三社祭 異例の宮神輿(みやみこし)巡行」とあった。
三基ある宮神輿のうち「一之宮」のみを、装飾した「御用車」と呼ぶトラックに固定し、お囃子が先導、マスク姿の宮司を乗せた人力車が後に続く。例年の威勢のいい掛け声はなく、しかも巡行ルートも公表しないという念の入り用、2時間をかけて淡々と走り抜けたという。
この写真を見て、最近見た、あるテレビのシーンを思い出して苦笑してしまった。例の人気番組の限界集落探検記。ある山の中には、高齢の女性がただ一人残って暮らしている。かつては30数戸あった集落の秋の祭礼は、村を離れた氏子のひとりが軽トラにお神輿を載せて運転する。助手席には町から来た宮司が乗る。そして無住の家々を回り、スピーカーから流れる祭囃子が谷間にむなしくこだまするのだ。

今年も残すところ、あと2ヶ月余。関東地方の祭りではあるが、11月には各地の神社で「酉の市」(おとりさま)が行われる。今年は三の酉まであり、一の酉が11月2日、二の酉が11月14日、三の酉が11月26日である。関東三大酉の市のひとつ、東京新宿の花園神社では例年多くの参拝者で賑わい、見世物小屋も出現する。しかし、今年は境内の縁起物の飾り熊手店のみの出店で、境内・靖国通り歩道上での露店出店は中止となった。もちろん、見世物小屋もない。参拝者は全員マスク着用の入場となる。

先の『大道芸アジア月報』10月号には、「平成大道芸年表」が連載されている。今回は、1994年(平成6年)の巻である。新宿書房にも関連する事項があるので、拾い出してみよう。
2.11 安田里美人間ポンプショー
6.3〜5 縁日風景’94―PARIS
10.10 ギリヤーク尼崎、新宿で青空舞踊の会
12.3 秩父夜祭に人間ポンプ出演
「碁石を飲み込み、五十円玉と鎖を飲み込み、ナイフを飲み込み、安全カミソリを飲み込み、金魚を飲み込む。そしてガソリンを飲んで火を吹く・・・」人間ポンプこと安田里美さん(1923〜1995)に関連する本を新宿書房から2冊刊行している。『見世物稼業――安田里美一代記』(鵜飼正樹著、2000年)と『見世物小屋の文化誌』(鵜飼正樹+北村皆雄+上島敏昭編著、1999年)だ。『見世物小屋の文化誌』には、ドキュメンタリー映画『見世物小屋〜旅の芸人 人間ポンプ一座〜』(製作=ヴィジュアルフォークロア、監督=北村皆雄、語り=麿赤兒、1997年)の再録シナリオが収録されている。このドキュメンタリーは安田里美興行社による1994年12月の秩父夜祭での掛け小屋興行の一部始終を克明に記録したもの。まさに、この年表に記載されている時の記録なのだ。しかも、人間ポンプ=安田里美さんは撮影後、病に倒れ、翌95年10月8日の「最後の見世物 人間ポンプ」の公演(浅草)で奇跡的に舞台に復帰したものの、同公演後再び倒れ、翌11月26日に亡くなっている。その意味で、この作品はたいへん貴重な映像となった。

そして、6月3日から5日までの「縁日風景’94―PARIS」。総勢46人(夜店・大道芸33軒)が、はるばるフランスに飛び、パリの空の下、日本の縁日風景を3日間にわたって再現したものだ。これについては『間道――見世物とテキヤの領域』(坂入尚文著、2006年)に詳しい。チンドン屋の林幸次郎(幸治郎)さん(『ぼくたちのチンドン屋日記』1986年、『チンドン屋!幸治郎』2006年)らが、パリの街の路地を練り歩き、縁日のチラシを撒いた。

   

あのギリヤーク尼崎さん(『東京新聞』「こちら特報部」2020年10月9日)も、このパリの縁日で大道舞踏実演をしているのだ。

今年の酉の市、花園神社では「境内の縁起物の飾り熊手店のみの出店で、境内・靖国通り歩道上での露店出店は中止となった」ということは前に紹介した。ということは、いつも靖国通りから境内に入った右側に出店(三寸)している飴細工師の坂入尚文さんの姿をみることができないのだ(本コラム89も参照)。しかも、驚くことには、坂入さんは、近々発行される見世物学会の新聞で「あめや廃業宣言」を発表するという。ほんとうに寂しい年末になる。