(22)スタート
[2018/4/20]

 32年間続けた女子大学での非常勤英語講師生活が、この2月はじめに終わった。長かったといえば長かったが、いざ最終日を迎えてみると、ああ、こんなものか、とちょっと拍子抜けした印象もあった。

 大学での最後の日、お昼休みに嬉しいサプライズがあった。親しかったY先生が音頭を取られたらしいのだが、十数名の教え子たちが、廊下に集まり、わたしを待っていてくれた。Y先生とわたしは、科目は異なるが、偶然にも同じ1年生の女子学生たちを、受け持っていたのだ。もちろん、どちらも英語の授業。花束をいただき、みなで何枚も記念写真を撮った。後日、Y先生は、ごていねいにも、そのうちの1枚を額縁に入れて、わたしにプレゼントしてくださった。

 わたしが勤めた女子大学って、こんなにも暖かく、気持ちのいい職場だったのか、と改めて実感させられた。

 それから幾日たったのだろう。なんとなく月日は流れていく。特に、退屈極まりないというのでもないが、とりたててエキサイティングでもなかろうことは、容易にお察しいただけるかと思う。年齢も、思えば、すでに昨秋に古希を迎えてしまった。さて、これからどう生きていこうか。

 久しぶりにひとりで映画を見たり、美術館に出かけたりもした。銀座で友人に会って、ランチを共にし、おしゃべりもした。ひんぱんに散歩にも出かけた。しかし、なんかちょっと物足りないような気がした。

 そんな時、そうだ、前々から英語を教えてほしいという友人たちがいたことを思い出した。ええ、そのうち、リタイアしたらね、などと言っては、ぐずぐずと引き延ばし、優柔不断で失礼な態度を取り続けていた。待ってますよ、と寛大な答えをいただいては、少々後ろめたい気分に襲われたものだ。

 3月の終わりに、一大決心をした。よし、英語を教えよう。プライベート・レッスンだ。それも、少人数のおとなの女性たちに教えよう。子供向けの英語教室を開いたら、とアドバイスしてくださる方もいたが、もう学校とは縁を切りたい思いがした。どういうわけか、話はとんとん拍子に進み、4人の女性たちが、月2回、我が家に集まって、いっしょに英会話の勉強をすることになった。全員、お互いに知り合いで、気心も知れている。いいグループが出来上がった。

 午前中、1時間半から2時間ほどを、英会話のレッスンに費やす。テキストブックは、今月からNHK教育テレビで始まった、新番組『おもてなし基礎英語』を使用することにした。これなら、大人向けの英語の表現に、たっぷり学べそうだ。のんびり、楽しく、を目標に、わたしの小さな英会話教室がスタートした。まだ、たった1回しか集まってはいないが、なんか久しぶりにワクワクする。わたしには、やっぱり、英語を教えることが向いているようだ。好きなんだ。仕事って、いいな。人と触れ合い、人に喜んでもらうって、いいな。さあ、新学期のはじまりだ。


タイムの花も満開