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古いおもちゃ

[2001/08/29]

笠井逸子

数日前、九州の姉から、待ちに待ったパッケージが届きました。小さい頃に愛用していた、木のおもちゃ類が送られてきました。姉が、自宅の納戸を引っかきまわして、探しだしてくれたのでしょう。数個ずつのおもちゃの家具が、透明のプチプチシートに、厳重に包装されていました。

おもちゃの家具は、全部で20点ほどありました。すべての家具に、確かに見覚えがあります。プラスチック製のおもちゃが登場する前の、木製のミニアチュア家具類です。最初に集めはじめたのは、上のふたりの姉たちでした。姉たちが揃えていたものは、ひときわ頑丈に作られています。応接間の三点セットがあります。2脚のアームチェアには、赤紫色の布が、ふんわりと、いかにも座りごこちよさそうに、張られています。ふたつのアームチェアの間には、こげ茶色のテーブルを配置します。このセットの横には、ふたりがけでしょうか、ソファを並べます。ソファの布は、ピンク。ピンクのクッションの周囲には、赤いテープが貼られています。薄ものの布は、シルクでしょうか。それとも、年月がたったせいで、薄くなっているだけでしょうか。

姉たちのコレクションは、あと3点。布張りのクッションのつかない、木だけでできたアームチェア。全体が、青い塗料で色づけされています。両側面に黄色の鳥の絵柄がついています。椅子をひっくり返すと、だれが描いたのか、赤いクレヨンの落書きが見えます。木製のゆり椅子があります。赤ちゃん用の椅子でしょうか。2羽の白い鳥が、座席をはさむかっこうになっています。丸みをおびた、鳥のおなかの部分が、ゆれるしかけです。最後は、ミシン。昔式の足踏みミシンです。でも、足踏みの板は、ついていません。黒いミシンには、ローマ字で、SAKURAと銀色で名前がついています。

残りの家具は、わたしが集めたものです。ひとつひとつの家具を、じょじょに買い集めたものです。もちろん、母か父が買ってくれたのですが。小さな町にあった、たったひとつのデパートのおもちゃ売り場に行っては、ねだって買ってもらったのでしょう。

わたしのコレクションは、ぐっとモダンになります。ブルーのグランドピアノがあります。ふたを開くと、椅子がおさめられています。淡いブルーに塗られた学習机と椅子もあります。机の上には、白い本立てを置きます。鏡のついた化粧台には、先のとがったきみどり色の足が4本ついています。白いキッチンワゴンがあります。今でいうキャスターのひとつが、なくなってしまっています。左にかしいだままです。こんなしゃれたワゴンを持った家なんて、どこにもありはしなかったのに。

テレビも蓄音機もあります。どちらも背の高い箱型です。蓄音機のふたをあけると、レコードと白いアームもついています。78回転の黒いレコードのお皿をのっけましょうか。庭には、おりたたみ式のすべり台もあります。赤と白の水玉模様がついています。高さ調節のできるデッキチェア。赤白の縦じまの布が張られています。丈夫なキャンバス地のつもりでしょうか。芝生の木陰に置かれたこのデッキチェアで、『映画の友』を眺めましょう。庭には、もちろん犬小屋があります。赤いとんがり帽子の犬小屋には、白い煙突までつきだしています。

この家には、赤ん坊もいます。ピンクの赤ちゃん用ベッドと、対になったついたても立てられます。赤ちゃんが眠っているときは、このついたてで仕切るのです。それとも、ここは病院でしょうか。だれかが入院しているのかもしれません。病人のプライバシーを守って、ついたてを立てます。看護婦さんの人形を持っていたのを、思い出しました。ナイロンのすけすけエプロンをつけた看護婦さんでした。それとも、メードさんだったのか。ほかに、庭におくのに適した、カジュアルな椅子とテーブルセットが、2組もあります。最後に門。白い観音開きの扉をもった塀が、1対あります。門柱の右側に表札、左側に赤いポスト。りっぱな門構えです。純日本式家屋用の門では、ありません。アメリカ式の明るい芝生のある家のための、門と塀のようです。

犬がいて、赤ん坊がいて、テレビも蓄音機もあり、ピアノもひけました。夢の家だったのです。よい子のための学習机は、少し事務的な感じがしますが、そのほかは、どれも心ときめかせる家具ばかりです。姉たちのコレクションは、重厚な昭和のロマンを思い起こさせます。わたしの家具たちは、手の届かなかったアメリカン・ドリームのなかのマイホームを象徴していたのかもしれません。ひとつひとつ、ていねいに作られています。どれも、手のなかにすっぽりおさまるサイズです。木のぬくもりと柔らかさが、懐かしい。

小学校1~2年の頃まで、8畳の座敷に、これらの家具を広げて、近所の友だちとよく遊びました。さっちゃんやかずこちゃんや、さっちゃんの妹のみーちゃんたちと。同じ部屋で、父が経理の仕事をしていました。くわえたばこをくゆらせながら、座卓に向かって、書きものや計算をしていました。仕事のとき、ずっとたばこを離しませんでした。それが遠因だったのでしょう、父は舌がんで亡くなりました。大学を卒業した年のことでした。

参考URL:
ミニアチュア家具
 http://www.petite.co.jp/bodoHouse.html

*筆者(かさい・いつこ)は『グリーンフィールズ』の訳者。東京都杉並区に在住。夫とボーダーコリー(小次郎)と住む。

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