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西・荻窪に暮らす

[2001/08/26]

笠井逸子

西・荻窪に暮らす

JR中央線は、最近、人身事故(非JR語では、飛び込み自殺を意味します)の多い路線として、悪名をはせています。特に事故発生数の多い駅のなかに、西荻窪駅も荻窪駅もはいっているようです。そのふたつの駅を、わたしは使います。どちらの駅に行くにも、少々時間がかかります。

駅に近い所に住むのは、生活の上からは大変便利なのですが、環境の面から考えるとネガティブな場合が多いようです。以前、地下鉄丸ノ内線南阿佐ヶ谷駅から、歩いて3~4分ほどの、極めて便利なマンションに暮らしたことがありました。どこへ出るにも、とにかく便利この上なしでした。しかし、その住環境たるや、かなりお粗末でした。

マンションは、青梅街道に面して建っていました。目の前に、消防署がありました。夜な夜な、救急車が出動します。火事があれば、すさまじい音とともに、消防自動車が出ていきます。しばらく住みますと、人間とは慣れの生きものなのか、慣れっこになって、それらの音に鈍感になっていきました。

空気の悪さにも、悩まされました。一年をとおして、窓をあけ放つことができませんでした。春と秋、ほどよい気温の時候になっても、窓をあける気になれませんでした。騒音が押し寄せてくる、汚い空気が入りこむといった具合で、とても落ち着いた気分になれません。エアコンの空気噴出し口から、奥をのぞくと、真っ黒な煤と油がこびりついているのが、わかります。体にいいわけ、ありません。

そんなこんなで、西荻窪駅と荻窪駅を、逆三角形の左右の頂点に見たてて、底の点にあたる場所に、5年ほど前に引っ越してきました。荻窪駅へは、バスが利用できます。ふたつのルートがあります。でも、どちらのバス停に出るにも、しばらく歩かなければなりません。バスひと駅ほど、歩く勘定です。西荻窪駅に出るバスは、ありません。わたしの場合、歩くしかありません。ゆっくり歩くと30分ぐらい、かかります。自転車を持っていませんので、歩きます。自転車には、乗らないことにしています。実をいえば乗れません。歩くのは、苦になりません。

買いものや用をすませるために、西荻窪駅方面と荻窪駅方面と、どちらに歩くほうが楽しいかといいますと、わたしの場合、前者です。しばらくは、交通量の多い一方通行の通りを、遠慮しながら、歩かなければなりませんが、その後は、グリーン豊かな閑静な住宅街を、通り抜ける道順になります。

西荻窪駅周辺でのお気に入りは、なんといっても、骨董屋さんです。その小さな店は、骨董屋というイメージではいいあらわせない、落ち着いた、おとなのための雑貨屋さんといった感じのアンティーク・ショップです。アメリカやフランス、イギリスなどから来たオールドの布、アクセサリー、食器などが、並べられています。全部が古いものとは、限りません。新しい小物も置いてあります。一辺が1センチにも満たない、真四角の布を縫い合わせてこしらえたピンクッション、毛糸で編んだサボテンのミニアチュア、古い花柄の布を再利用して作った小さな手提げバッグなど、しばらく目をこらして見ないと見過ごしてしまうような物たちばかりが、狭いスペースに、きちんと収まっています。この店には、エアコンがありません。小型の扇風機が、どこからか、かすかな風を送りつづけています。

しばらく前に、アメリカから来たという小皿を3枚、求めました。白とブルーの厚みのある小皿です。白といっても、温かみのある白色です。皿の周辺は、灰色がかった、くすんだブルー。そのブルーのなかに、ヒイラギの葉っぱのような葉模様が、白でぐるりと染め抜かれています。古風でシックな皿です。少しアールデコ調です。

「これ、本当にアメリカ製?」と、わたしは驚きました。「そうなんですよ」物静かな、店のオーナーの女性も、笑いながら答えました。「アメリカ製とは、信じられないわねー」と、ふたりで再び笑いました。にしおぎは、しゃれた街です。

参考URL:
西荻窪アンティーク・オンライン・マップ
 http://www.hydrophyte.com/deep/AQMAP

*筆者(かさい・いつこ)は『グリーンフィールズ』の訳者。東京都杉並区に在住。夫とボーダーコリー(小次郎)と住む。

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