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小次郎

[2001/08/18]

笠井逸子

犬を一匹飼っています。ボーダーコリーのオス犬です。平成9年1月15日生まれですから、4歳と7ヶ月ほどになります。名前は、小次郎です。

ボーダーコリーは、牧羊犬です。日本では、あまりたくさん見かけない犬種ですが、最近、少しずつ知られるようになってきました。

『ベイブ』というチャーミングな、映画がありましたでしょう。主人公は、豚のベイブ君。ベイブ君がもらわれていった農場に、ボーダーコリー犬がいました。羊の番をする、賢い犬です。コリーと聞くと、「名犬ラッシー」のコリー犬を思いおこす人が多いのですが、あの種類ではありません。コリーを小型にしたシェルティー(シェットランド・シープドッグ)とも、当然、異なります。 スコットランドとイングランドの国境、つまりボーダーあたりにいた牧羊犬ということから、この名前がついたそうです。

『ベイブ』に登場するボーダーコリーは、白と黒の美しい配色の犬でした。白と茶の組み合わせもあるそうです。豊かな長毛の犬です。敏捷に走りまわり、ジャンプも得意な、中型犬です。 小次郎の体重は、およそ25キロあります。メス犬だと22キロぐらいでしょうか。小次郎は、少し大きめのボーダーコリーになります。おじいさんが、がっちりした体格のブラック犬だったと聞いています。ブラックのボーダーは、そうそういません。突然変異ということらしいです。

小次郎も、真っ黒に近いボーダーです。足先と胸のあたりに、わずかに白い毛が残っています。両前足の白い部分は、ちょうどソックスをはいたようです。はじめて小次郎を見る人は、たいてい、こう叫びます。「あっ、ソックス、はいてる!」

小次郎という名前は、息子がつけました。犬を飼ったら、必ず小次郎と命名しよう。小さい頃から決めていたらしいのです。日本式の名前をもつ犬は、近ごろでは、レアーもの。そのせいか、小次郎の名前は、だれにでも、すぐに覚えられる利点があります。

柴犬には、和名がついている場合も多いですが、洋犬には、カタカナ名をつける飼い主が圧倒的のようです。モモちゃん、サクラちゃんという、かわいらしい名前のついた柴のメス犬に、よく出会います。ほっとします。

大の犬好きで、バーニーズ(バーニーズ・マウンテン・ドッグ)とゴールデン・レトリーバーという大型犬を2匹飼っている友人の佐々木恵理さんは、ことばの研究者でもあります。最近、犬の名前に関して、興味深い論文を書きつづけていらっしゃいます。題して、「動物をめぐることばと表現 ― 犬の雑誌にみられる性差別的表現とジェンダー表現」というものです。現代日本語研究会の研究誌『ことば』21号に、発表されています。佐々木家の犬たちの名前は、ちなみに、あんずちゃんとつばめちゃんといいます。

佐々木さんは、また、犬グッズの作家でもあります。リードやチョーカーなどを、注文に応じて、手際よく作ってくれます。犬を飼うことについての、さまざまな相談にも応じています。大変、犬に詳しい女性です。彼女のホームページ「あんずとつばめ社」は、非常に緻密に作られた、中身の濃いものです。 ご参考のために。

わたしたち夫婦は、小次郎のことを、ふだん「コジ」と呼びます。特別に親愛の情を表したくなるときは、「こじたん」になります。

小次郎は、わたしたちといっしょに、家の中で暮らしています。家族の一員です。わたしは、小次郎の「おかあさん」です。つれあいは、小次郎の「おとうさん」であり、大学生の息子は、小次郎の「おにいちゃん」という具合です。息子は、大学が休暇になると、数ヶ月ぶりに東京にもどってきます。おにいちゃんを玄関で迎えるときの小次郎の狂気にも近い喜びようには、毎回、感動させられます。飛びあがって、乱舞します。息子の口に、キッスします。たたきに並んだ靴やサンダルが、蹴散らされます。

小次郎の主治医は、もちろん、ご近所のポッポ先生です。近ごろでは、実際に診察してくださるのは、若い牧野先生のことが多いですが。ポッポ先生も牧野先生も、頑丈なつくりの獣医さんです。ふたりとも、体重は、100キロに近いらしい。 小次郎の体重を測ってくださるのも、牧野先生の役割。小次郎の後ろにまわって、小次郎を抱きかかえたまま、体重計にのっかります。助手の女性やわたしが、ふたりの体重を記録します。そこから、牧野先生の分を引き算しますと、小次郎の体重が出るしくみです。

なぜ、わたしたち家族が、小次郎の体重を、自宅で測らないかですって。小次郎は、だっこが苦手なのです。成犬になってから、わたしたちには、決して、だっこをさせてくれません。困ったものです。こんなにかわいがっているというのに。

参考URL:
佐々木恵理さん:
あんずとつばめ社 http://plaza29.mbn.or.jp./~anzutotsubame/
ポッポ先生
(『動物病院笑い話555』の著者)ポッポ先生のひとりごと http://dr-poppo.hoops.ne.jp/


*筆者(かさい・いつこ)は『グリーンフィールズ』の訳者。東京都杉並区に在住。夫とボーダーコリー(小次郎)と住む。

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