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ハーブ湯

[2001/08/17]

笠井逸子

むし暑い東京の熱帯夜を、わずかでも快適に過ごすための方法を、ひとつ提案します。ハーブ湯に入ることです。

オーデコロンミント、アップルミント、スペアミント、レモンバームなど、わが家のガーデンで育ったハーブを、ばさばさと大胆にハサミで切りとります。洗面所のシンクで、ざっと洗います。ゴミや虫をとりのぞくためです。 きれいになったハーブの束を、洗濯用の網に入れます。お風呂をわかすときに、このハーブネットを、バスタブに投げ入れておきます。これだけの作業です。 うっすらと緑色をした、ハーブ湯のできあがりです。バスタブの中が、いってみれば、ハーブティーのプールになったようなものです。気分は上々。

ハーブは、もともと野草みたいなものだそうです。たいした手入れもいりません。春になると、土のなかから、生きてましたよ、と毎年顔を出してくれます。オーデコロンミントの場合は、紫色がかった丈夫な葉っぱが、土を押しのけるようにして、まず出てきます。アップルミントは、はじめから美しいきみどり色をしています。少し丸っこい、そりかえったような、やわらかい葉っぱが特徴です。

オーデコロンミントの繁殖力は、旺盛です。香りも、かなり強烈です。でも、決して品がないというのでは、ありません。クールで知的な香りです。スペアミント(ひょっとすると、わが家のスペアミントは、実はペパーミントかもしれません。いまだに、どちらだか、決めかねています)の数は、だんだん少なくなってきました。オーデコロンミントに押されがちです。レモンバームも、がんばります。こんな所に植えた覚えはないはずなのに、あちらこちらと、かたまって繁茂します。レモンバームの葉は、堅い感じがします。色は、濃いめのきみどり。それほど惹かれるグリーンではありません。

ハーブの生長についていくのは、大変です。わたしが、ばさばさと切りとっては、ハーブ湯に使うのも、収穫が多いせいなのです。よく、ご近所にも配ります。みなさん、喜んでくださいます。迷惑している方もいるかもしれませんが、懲りずにさしあげます。

特に喜んでくださるのが、ポッポ先生。ご存知、新宿書房から出ている『
動物病院笑い話555』の著者である、杉並の名物獣医さんです。

「ぼく、洗ったりしません。そのまま、風呂に、ばさっと投げいれて、入りました」と、言ってくださいました。ポッポ先生のお母様の反応もよく、ハーブファンが増えていくのを知るのは、一層楽しいものです。お母様は、すでにかなり高齢なはずですが、現役です。がっちりとした体躯、つきせぬ好奇心、ユーモアを解する、肝っ玉かあさんみたいな方です。動物病院をきりまわしているのは、実のところ、ポッポママではないかと、わたしはにらんでいます。

切りとった直後、しおれていたハーブたちは、お湯のなかで、不思議なことに、ピンと生きかえります。家族全員が、ハーブ湯を満喫したあと、ネットごと、ひきあげておきます。しばらく、お風呂場の中が、さわやかな香りに包まれます。それどころか、玄関をはいったとたん、ハーブの香りが、家中にたちこめている時もあります。翌日も、また使えます。2~3日の使用に、十分たえてくれます。

菖蒲湯というのもありますが、昨今の菖蒲は、ほとんど香りがありません。形式だけの菖蒲湯になりさがってしまっているようで、残念な気がします。その点、ミント類を集めた野性味あふれるハーブ湯は、裏切りません。香りだけでなく、リラックス効果も、ずばぬけて高いと信じています。もともと、薬草ですから、昔からさまざまな目的で利用されてきたはずです。

『薔薇の名前』という映画を、ご覧になった? 乾燥させたハーブの葉を、つぼに入れて、保管していましたよね。覚えていますか。体の不調に悩む、太って醜いお坊さまが、ハーブの葉っぱをお風呂に投げいれて、入る場面がありましたでしょう。後、この男性は、ハーブ湯のなかで、死体となって見つかるのですが。

このお坊さまの場合、毒をもられていましたから、さすがにハーブ湯ぐらいでは、完治しませんでした。でも、都会のストレスに毒された、わたしたちの体と心を、ハーブ湯は、十分にほぐしてくれる、安上がりな方法だとわたしは思っています。真夏の夜の、楽しみのひとつです。

参考URL:
ポッポ先生
(『動物病院笑い話555』の著者)ポッポ先生のひとりごと http://dr-poppo.hoops.ne.jp/
ハーブ:ハーブ工房へようこそ! http://www.yin.or.jp/herbhcc/

*筆者(かさい・いつこ)は『グリーンフィールズ』の訳者。東京都杉並区に在住。夫とボーダーコリー(小次郎)と住む。

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