ブラックベリーが豊作です。5月ごろ、わが家のブラックベリーに、白い小さな花が咲きました。めだたない普通の花です。形も平凡なら、大きさもどうということのない、印象の薄い花でした。
それから2ヶ月もたたないうちに、実をつけた房が、あちこちからたれさがりました。ひとつの房に、20個ほどのベリーがなります。はじめのうち、ブラックベリーの実は、茶色っぽい赤い色をしています。透き通った、堅い感じの実です。田舎娘風で、決して洗練された姿ではありません。薄いひげすら、うっすらと全身にまとっているほどです。
小粒のルビーを集めてこしらえる、タイの指輪にも似ています。くずに近いルビーを、パゴダの屋根みたいにもりあげた指輪があるでしょう。あまり高価なものではないはずです。
透き通っているうちのベリーは、未熟です。香りもしません。黒に近い濃い紫色をして、ふっくら柔らかいブラックベリーにまで熟すには、もっともっと暑い夏の日を浴びなければなりません。
この夏は、太陽がかっと照りつづけてくれたおかげで、あそこの房、こちらの房、アーチにからみついた房、ハニーサックルの枝の中に隠れた房、ブロック塀に立てかけたグリーンのトレリス(Trellis:格子状の冊や垣根のこと。素材は木製、金属製、プラスチックなどさまざまなものがある。目隠しや間仕切りとしての役目も。――エンカルタ百科事典2001より)の間からまっすぐに腕をのばした房から、ひとつふたつと、ブラックベリーが熟していきます。
黒くなったぷりぷりのベリーだけを、注意深く摘みます。朝のうち、頭のあたりだけが黒味を帯びていた実が、夕方帰宅する頃には、真っ黒に色づいています。これを取ります。10個ぐらい収穫がありました。摘んだベリーは、洗いもせず、そのまま、ビニール袋に入れて、冷蔵庫にしまっておきます。両手でかかえきれないほど収穫したところで、さて、ブラックベリー酒づくりにとりかかります。と言っても、いとも簡単。荒っぽい作り方が自慢です。マニュアルどおりなんか、やってられない。自己流でやるほうが、ずっとおもしろいし、楽しい。
果実酒用のガラス容器は、一応持っています。2年前に、近所の雑貨屋さんで買いました。一番小さいサイズのものを求めました。1.8リットル入りぐらいでしょうか。はじめの年は、カートン入りのホワイトリカーを使いました。水晶の原石のような砂糖も、もちろん、たっぷり入れました。レッドワインみたいな、赤紫色の陽気な果実酒ができあがりました。でも、甘すぎました。
ある時、テレビを見ていたら、果実酒づくりの名人が紹介されました。ありとあらゆる材料を、お酒に変えてしまう達人です。その女性は、いっさい砂糖を使わないことが、わかりました。わたしも昨年から、砂糖を使わないことにしました。ことしは、焼酎にも凝ってみることにしました。荻窪駅前にある自然食品の店で、岩手産の本格焼酎「陸前」をとり寄せてくれました。梅酒をつける時期を過ぎているので、在庫がわずかしかありませんでした。お店の若い女性は、わが家の庭でとれたブラックベリーを使って、ブラックベリー酒をこしらえると聞いて、「うらやましーっ!」と叫んだそうです。
両手に山盛りの熟したブラックベリーを、ボールにあけ、塩をいれて、洗いました。ヘタもきれいに、取りのぞきました。水洗いしたベリーを、ざるに移しかえ、水切りをしたあと、念のために、ペーパータオルでさらに水分を吸いとります。ガラスびんに、甘い香りを放つベリーをあけ、高価な焼酎を注ぎました。びんの3分の2ほどまで、注ぎます。ラベルに、「7/14/01」と日付を記入しました。おととしは、8月10日につけこんでいました。昨年は、8月6日。ことしは、早々と準備したものです。
*筆者(かさい・いつこ)は『グリーンフィールズ』の訳者。東京都杉並区に在住。夫とボーダーコリー(小次郎)と住む。
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