スウェーデンのアニメ作家エーリック・ローセンルンド監督トーク(2)スウェーデンのアニメーション業界と自身の新作について

[2008/10/11]

 前回に引き続き、東京・下北沢のトリウッドで上映された特集「海外アートアニメーション@トリウッド2008秋」で開催の、スウェーデンのアニメーション作家、エーリック・ローセンルンド(Erik Rosenlund)監督を招いてのトークイベントをご紹介する。前回、自身のプロフィールやスウェーデンの新作長編作品『Metropia』についての部分を掲載したが、今回はスウェーデンのアニメーション業界や、彼自身の今後の予定、そして観客とのQ&Aをご紹介する。前回同様、彼の作品については、本コラム第79回で今回の特集について紹介しているのでそちらや、彼の公式サイトも英語だが、各作品のスチル写真などもみられるので、あわせて参照していただくと話の内容が分かりやすいだろう。なお、文中〔〕内は当コラム筆者による補足である。

 スウェーデンのアニメーション業界

 みなさんはスウェーデンのアニメーション業界は、どんな感じだと思われますか? アニメ大国の日本では考えられないことかもしれませんが、スウェーデンではごく小さく、アニメーター同士みんなお互い知り合い、というくらいの規模なのです。

 そのため、この『Metropia』という作品くらい、高いクオリティを追求したようなものをつくろうとすると、本当にできる人がいないために、なかなか一つの国だけで製作するということは難しく、必然的にいくつかの国で共同製作することになります。今回の作品ではスカンジナビアの国々のほか、イギリスやベルギーのスタッフも携わっており、ストックホルムのスタジオにやってきて、作業に当たっています。スタッフは全部で25人です。そのうち20人ほどがアニメーターで、そのうち半分くらいがスウェーデン人、そのほか、デンマークやノルウェー、イギリスやベルギーの人がいます。ほかに5人くらい、ポストプロダクションの仕事をしています。

 スウェーデンはじめ北欧諸国、あるいはアイルランドやドイツなどと一緒に仕事をし、合作することは、アニメーションに限らず、長編の実写などでもごくあたりまえのことなんです。

 今後の予定、自分の作風

 『Metropia』以外に、いま自分の監督した短編作品を一本撮り終えていて、間もなく発表する予定です。1970年代テイストにあふれた作品で、1974年のディスコソングを使っています。製作費はSVT、YLE、SFIから出してもらっています。カンヌなど多くの映画祭で好評を得たこれまでの作品のおかげで、自分の評価が高くなって、製作資金もわりあいすんなりと出してもらえました。

 それから『鏡の中に』の続編を準備中です。この作品はホラータッチなんですが、主人公の女の子が最後にどうなったのか、謎の多い結末になっています。準備中の続編では、このいまある作品の完全な謎解きにはならないのですが、女の子に何が起こったのか、より分かってもらえるような作品にするつもりです。

 もちろん、いずれは長編作品もつくっていきたいですが、もう少し先のことになりそうですね。ただ、長編、短編というのはそれほど違いがあるとは思いません。作品の長さは、ストーリーや本人の考え方しだいで変わってくるものだと思います。

 スウェーデンはじめ、北欧のアニメーションのコミュニティはとても小さいものですが、北欧デザイン、北欧スタイルといったものは日本をはじめ海外でもたいへん人気があって、そういうものに自信をもっています。そういったものからいい影響を、アニメーターも受けているのだと思います。私の作品も、オリジナリティの強いものだと思うのですが、これも、どこが、と具体的に挙げることはできないのですが、スウェーデンの伝統的なものの影響を受けているのではないでしょうか。

 

『執事』(Butler)/エーリック・ローセンルンド/ スウェーデン/ 9分20秒/手描き・2DCG・3DCGエフェクト/© Erik Rosenlund

客席とのQ&A

問:作品をみせていただくと、キャラクターが工業デザインのような直線的なドローイングのスタイルですが、このようなスタイルはどのようにして確立されたのですか?

答:私はイラストやマンガにも興味があり、映画や舞台も好きで、ミュージカル・コメディの脚本にかかわったこともあります。コメディも好きなんですが、個性の強い設定の人物を登場させる場合、ふつうのアニメーションのようなキュートな姿形にするより、このような単純な形にしたほうが、より面白さを強調して表現できると思い、このような形になるまで、自分で開発していきました。もちろん、工業デザインにも興味があって、美術館にも行っていろいろみたりしています。

問:いまの質問にも関連するのですが、ご自分の作品のキャラクターの現在の形にたどり着くまではいろいろ試行錯誤があったと思います。この形になるまで、時間的にはどのくらいかかりましたか?

答:2002年に卒業製作作品を手がけた時は、まだ製作途上といった感じでした。でも、そこでつかみかけたかな、という感触はありました。そのあと、『強迫観念』でだいたいあのスタイルが確立できた、という感じです。ですから、時間的には2年くらいでしょうか。でも、これが完成形とは考えておらず、いまでもブラッシュアップさせています。

 キャラクターの形はストーリーにもよると思います。たとえば、『鏡の中に』はあまりシンプルではありませんが、卒業製作ではキャラクターがシンプルにしにくいものでしたし、『強迫観念』、『執事』はストーリー性のあるものなので、キャラクターはシンプルにする必要がありました。

問:『Metropia』は国際共同製作ということですが、スタッフのみなさんは英語でコミュニケーションをとられるのですか?

答:日常使う言葉としては、実際はスウェーデン語が共通の言語でした。スウェーデン語、デンマーク語、ノルウェー語は非常に近い言語なので、お互いそれぞれの言葉でコミュニケーションができます。ただ、イギリスやベルギーなどからの何人かのスタッフはこちらの言葉が分かりませんから、英語でやりとりすることになります。

問:コミックを書かれていたそうですが、どのようなものを書かれていたのですか?

答:最初の方でもお話ししましたが、僕は新聞のコマ割り漫画を描いていたことがあります。スウェーデンでは、けっこう若いアーティストが日刊紙のマンガを手がけることも多いです。スウェーデンではこの10年ほどの間に日本のコミックの影響を受けた層が増え、コミック作家を目指そうという若い人も増えています。スウェーデンの伝統的なコミック文化ではなく、日本の影響が年々強くなってきているようです。

問:日本のアニメーターで影響を受けた人は誰ですか? また、スウェーデンの最近の映画ので、印象に残っているものはありますか?

答:今敏〔こん・さとし:1963年生まれ、『パーフェクトブルー』(1977)で監督デビュー、ほかにアニメ作品では『妄想代理人』(2004)、『パプリカ』(2006)など〕さんやProduction I. G〔『機動戦士パトレイバー』シリーズや『スカイ・クロラ』(2008)などを手がけるプロダクション〕の作品は好きですし、影響を受けています。スウェーデンのものということだと、最近のものではなくて申し訳ないのですが、イングマール・ベルイマン監督の『野いちご』(1957)は好きな作品です。

司会:ちょうどお時間となりましたので、これで終わりたいと思います。エーリックさん、ありがとうございました(拍手)。

トークショーの後、公私にわたるパートナー、スサンさんと2ショット。

 今回、公私にわたるパートナーだという、やはりアニメーターとして活躍するスサン・ストゥレソン(Susanne Sturesson)と共に来日されたエーリックさん。ご紹介した『Metropia』が本当に追い込みということで、仕事が大変そうでせっかくの日本なのに観光もできずにちょっとお気の毒な感じも。だがジブリ美術館に行ったり、トークショーの当日も、司会・進行・通訳の伊藤裕美さんにどこか日本の工業デザインをみられるような美術館はないだろうか、と尋ねたりしていて、スサンさんともども研究熱心、仕事熱心な方のようだった。そういえば、日本には産業遺産として日本の工業製品を展示・保存する博物館的なものはいくつかあると思うのだが、デザインとして展示してある美術館というのはあるのだろうか。お二人はどこかみつけられたのかなあということが、ちょっと心配であった。

 なお、今回の取材では作品配給元のオフィスHの伊藤裕美さん、上映館の短編映画館トリウッドに大変お世話になりました。最後に御礼申し上げます。

エーリック・ローセンルンド監督公式サイト(英語):http://www.erikrosenlund.com/
トリウッド公式サイト:http://homepage1.nifty.com/tollywood/
オフィスH公式ブログ:http://blogs.yahoo.co.jp/hiromi_ito2002jp
 

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