第12回広島国際アニメーションフェスティバルでフィンランド特集を開催

[2008/8/5]

 2年に1度、世界から選りすぐったアニメーション芸術を紹介する広島国際アニメーションフェスティバルが8月7日から11日まで開催される。プログラムは1985年の第1回大会以来毎回手がけている、国際アニメーションフィルム協会会長で同日本支部会長でもある本フェスティバルディレクター、木下小夜子氏により今年も作成されている。

 そして今回のフェスティバルではフィンランドアニメーション特集が企画されている。約90分のプログラムを合計11回上映という、かなり大がかりなものとなっているだけでなく、内容的にも非常にバラエティに富む。ごく短いCMやプロモーションビデオのようなものから、劇場公開用の長編まで、またアニメーションの技法も伝統的なパペットアニメから最先端のCGを使ったものまで、さまざまな作品が集められた。また、プロのアニメーターや商業的なスタジオのものだけでなく、トゥルク・アーツ・アカデミーなどの学生や小さな子どもたちの作品なども紹介される。

 作品の総数は全部で150以上におよぶ。とにかく盛りだくさんなので、かいつまんでご紹介していきたい。

長編『クエスト・フォー・ア・ハート』、『ムーミン谷の夏まつり』
 まず長編だが、8月9日に『クエスト・フォー・ア・ハート』(Röllin sydän:2007)、『ムーミン谷の夏まつり』(Muumi ja vaarallinen juhannus:2008)の2本が上映される。

 『クエスト・フォー・ア・ハート』は昨年12月に劇場で封切られた作品。いたずらや乱暴のはびこる村で、何百年も生きているのに精神年齢は10歳の少年というロッリが、ある日美しい妖精のミリーに出会う。二人は友達になるが、妖精たちの住む森が破壊され、それを止める唯一の方法が冬の大地に隠された魔法のハートをみつけることだと知ったロッリは、ミリーと共にそれをさがす冒険に出かける、というファンタジー。

 監督はペッカ・レートサーリ(Pekka Lehtosaari)。1963年にヘルシンキで生まれた。監督としては本作が長編デビュー作のようだが、実写作品も含めて映画脚本も多く手がけておりキャリアは長い。変わったところでは日本のジブリ作品のフィンランド語版の監督や、アニメや外国映画の吹き替えの声優などもやっていて、本作でもオリジナルのフィンランド語版では何役かつとめている。また、音楽は『フロントライン 戦略特殊部隊』(143ページ)や「Elina: As If I Wasn’t There」(180ページ)なども手がけた、フィンランドを代表する映画音楽家の一人、トゥオマス・カンテリネン(Tuomas Kantelinen)が担当している。なおこの作品、オリジナルはフィンランド語だが、今回の上映は英語版、日本語字幕付きでの上映となる。

 また、フィンランド語と英語の本作の公式サイトがあるので、興味のある方は下記のリンクからご覧になっていただきたい(英語もフィンランド語も内容的には同じ)。予告編やあらすじ、登場人物紹介などの内容がけっこう充実している。

 『ムーミン谷の夏まつり』は今春フィンランドで封切られ、スウェーデンでいま公開中という最新のムーミン映画である。原作は邦訳もされている有名なトーヴェ・ヤンソンのムーミン・シリーズの同タイトルの1冊なので、内容の説明は省略する。本作は1977年からトーヴェ・ヤンソンの監修のもと、ポーランド、ドイツ、オーストリアが共同製作したテレビシリーズのパペットアニメーションを再編集、『夏まつり』の部分だけをまとめたもの。このテレビシリーズは近年DVD化もされており、日本でも『ムーミン パペット・アニメーション』というタイトルでリリースされている。テレビ版では一人の語り手が語っていくスタイルだったが、この映画版では登場人物ごとにせりふが加えられている。今回上映されるのはスウェーデン語版で英語と日本語の字幕のついたもの。このスウェーデン語版で登場人物の声を担当しているのは、ほとんどがスウェーデン系フィンランド人のようだ。

 こちらもスウェーデン語とフィンランド語だが公式サイトがあって、予告編や登場人物紹介などをみることができるので、興味のある方は下記のリンクからご覧を。

『ムーミン谷の夏まつり』(Muumi ja vaarallinen juhannus:2008)
“Moomin and midsummer Madness”/ Director : Maria Lindberg/ Producer : Tom Carpelan/ Script : Minna Karnonen , Ilvo Baric/ Production Company : Oy Filmkompaniet, Alpha Ab
©Filmoteka Narodowa / Jupiter-Film / Filmkompaniet / Moomin Characters™

各作家のあゆみをたどる「作家特集」
 10日には作家特集が上映される。1回に2人ずつの作家を取り上げ、3回に分けて上映するもので、フィンランドを代表するアニメーション作家6人の作品が新旧おりまぜて紹介される。上映の順に紹介すると、ヘイッキ・プレプラ(Heikki Prepula)、タトゥ・ポホヤヴィルタ(Tatu Pohjavirta)、カタリーナ・リルクヴィスト(Katariina Lillqvist)、アンッティ・ペレンネ(Antti Peränne)、クリスティアン・リンドブラード(Christian Lindblad)、マルユト・リミネン(Marjut Rimminen)のみなさんである。

 簡単だがこの6人についてプロフィールを紹介しておこう。

 ヘイッキ・プレプラは1939年生まれ。彼は1970年代を中心につくられた緑色のカンガルー(Kössi Kenguru)が主人公のテレビアニメシリーズが代表作。タトゥ・ポホヤヴィルタは1977年生まれの若手で、彼は短編を多数製作しているほか、次に紹介するカタリーナ・リルクヴィストの作品の編集なども手がける。下記の公式サイトは英語だが、フラッシュ・プレイヤーによるアニメーションなど本人の作品をみることができる。カタリーナ・リルクヴィストは1963年生まれ。彼女はチェコアニメを代表する作家、イジー・トルンカのスタジオでパペットアニメの技術を習得した。最新作は『ウラルの蝶』(Uralin perhonen:2008)。この作品の編集を先述したポホヤヴィルタが手がけている。下記の彼女の公式サイトはフィンランド語なのだが、作品のスチル写真や本人のプロフィールなどをみることができる。アンッティ・ペレンネは1929年生まれで、やはりパペットを使ったアニメーションを得意とする人で、数多くのCMなどを手がけている。クリスティアン・リンドブラードは1963年生まれ。クレイアニメーションを得意とする作家。下にある『ヌードの研究』(2007)の写真は今回上映予定の彼の作品の中の一つである。なお、彼の作品は今秋東京・下北沢の短編映画館トリウッドで開催される北欧ショートアニメーション特集でも紹介される。マルユト・リミネンは1944年生まれ。ヘルシンキ大学でグラフィックデザインを学んで1968年に卒業した後、アニメーションによるCM製作を始めた。彼女の作品は国際的にも高く評価されており、数多くの賞に輝いている。現在、彼女はフィンランド国立映画・テレビ学校の講師もつとめる。

 
『ヌードの研究』(Alastonutkielma:2007)
“A Nude Study”/ Director/ Script/ Animation/ Art/ Camera/ Editing/ Producer: Christian Lindblad
©LR Film Productions
 

「作品集」と「スタジオ特集」
 ほかに、作家ごとではないが、子どもたちのつくったものを含めてフィンランドのさまざまなアニメーションを紹介する「作品集」の上映が計4回予定されている。また、トゥルク・アーツ・アカデミーなど学生たちの作品をまとめて紹介する「学生作品集」などの特集がある。

 今回のフィンランド特集のトップを飾り、7日の1回目に上映となるのが学生特集だが、全部で15の作品が紹介される。引き続き7日に2回、そして最終日の11日に2回の「作品集」上映が予定され、全部で60の短編が紹介される。今回上映される中には、フィンランド南部の都市で毎年3月に開催されるタンペレ映画祭をはじめ、世界の短編映画祭で高い評価を得た作品も多い。

 「作品集」の上映作品を少しご紹介すると、国際的な評価も高まっているアーティストたち、ミッラ・モイラネン(Milla Moilanen)の『プレポスト・マテリアルズ』(Pre/Post:2007)や、Chrzuの名前で活動しているクリステル・リンドストレム(Christer Lindström)の『離島の呪い』(Kaukosaaren kirous:2008)、ミュージックビデオ『ア・ソング・イン・ザ・シャワー』(A Song in the Shower:2006)といったものがラインナップされている。また、以前の広島アニメーションフェスティバルで上映されたヤン・アンデション(Jan Andersson)の『ハンカチはいかが』(Nena¨liinoja myytävänä:2003)といった作品も上映される。

 さらに、フィンランドの大手アニメーション製作スタジオの中から、フェイク・グラフィックス(Fake Graphics)、アニマ・ヴィーテ(Anima Vitae)、アニマ・ブティック(Anima Boutique)、ラス・パルマス(Las Palmas)の4つのスタジオの作品を紹介する「スタジオ特集」が予定されている。

 フェイク・グラフィックスはデジタル技術を駆使したアニメーションやイラストレーションを得意とし、数多くのクライアントのCMを製作している。下記の公式サイトは英語だが、作品の実例をみることができる。アニマ・ヴィーテはフィンランド最大のアニメーションスタジオ。劇場用の長編やテレビシリーズ、CMなど、数多くの作品を手がけている。レニングラード・カウボーイズ(211ページ)とコラボレートした作品も今回の上映のラインナップに入っている。近作の予告を含む、主要作品の紹介を英語の公式サイトでみることができる。下の画像は今回上映されるアニマ・ヴィーテ製作の作品から。ラウラ・ネウヴォネンの「The Last Knit」(2005)である。アニマ・ブティックはデザイン重視のアニメーションスタジオとしてアニマ・ヴィーテの傘下に設立されたスタジオとのこと。今回上映されるミッコ・ピトケネン(Mikko Pitkänen)の作品などはこのスタジオによる。こちらも下記の英語のホームページで近作、代表作の紹介などをみることができる。ラス・パルマスはミュージックビデオやCMなどを中心に製作するスタジオ。フィンランドのスウェットマスター(Sweatmaster)や、ベルギーのモンテヴィデオ(Montevideo)などのロックバンドのプロモーションビデオが今回上映されるが、これらはこのスタジオの作品。下記の英語の公式サイトでも、いくつか近作のCMやミュージックビデオが紹介されている。「スタジオ特集」は最終日の11日、フィンランド特集としては最後の回に上映、作品数はおよそ50本が予定されている。

 
『The Last Knit』(Kutoja:2005)
Director/Script: Laura Neuvonen
©Anima Vitae
 

その他、フェスティバルについて
 それから今回、コンペティション部門にはデンマークの作品も参加する。「コンペティション4」の中で上映される『オフィス・ノイズ』(Office Noise:2008)で、デンマークのアニメーション・ワークショップの学生マッズ・ヘルマン・ヨハンセン(Mads Herman Johansen)、トルベン・ソットルップ・クリステンセン(Torben Sottrøp Christensen)、カールステン・マドセン(Karsten Madsen)、レルケ・エネマルク(Lærke Enemark)による卒業作品。こちらの作品もどのように評価されるのか、楽しみである。

 映画祭の会場は広島市中区にあるアステールプラザ内の各ホール。プログラムや上映ホール、チケット等の詳細については下記映画祭オフィシャルページを参照のこと。フィンランドのアニメーションの全貌を紹介するかのような、これだけの規模での上映はフィンランド本国ですらそうはできないイベントだろう。非常に貴重な機会なので、興味のある方はお見逃しのないように。

 
映画祭公式サイト:http://hiroanim.org/
『クエスト・フォー・ア・ハート』公式サイト(英語):http://www.questforaheart.com/
『ムーミン谷の夏まつり』公式サイト(フィンランド語/スウェーデン語):http://www.muumielokuva.fi/
タトゥ・ポホヤヴィルタ公式サイト(英語):http://koti.welho.com/tpohjavi/index-flash.html
カタリーナ・リルクヴィスト公式サイト(フィンランド語):http://www.katariinalillqvist.com/
フェイク・グラフィックス公式サイト(英語):http://www.fakegraphics.com/
アニマ・ヴィーテ公式サイト(英語):http://www.anima.fi/en
アニマ・ブティック公式サイト(英語):http://www.animaboutique.fi/
ラス・パルマス公式サイト(英語):http://www.laspalmas.nu/

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