大阪ヨーロッパ映画祭で「スウェディッシュ・ドックス」開催 |
[2007/11/4] |
毎年大阪で開催され、ヨーロッパの新作映画の紹介をはじめユニークな活動を展開している「大阪ヨーロッパ映画祭」では、最近のスウェーデンのドキュメンタリーと短編を紹介する「スウェディッシュ・ドックス」が開催される。期間は11月10日から18日までの9日間。日本初公開となる作品もあり、上映の機会も少ないドキュメンタリー作品が観られる貴重な機会なので、北欧映画ファンのみなさんはお見逃しなく。 なお、この特集上映だが、同じプログラムで10月27日から8日にわたり、東京、京橋の東京国立近代美術館フィルムセンターでも「スウェーデン・ドキュメンタリー新作選」として上映された。すでにご覧になった方がいらっしゃるかもしれないが、各作品について簡単にご紹介しよう。 『極北のアームレスラー』(Armbryterskan från Ensamheten: 2004) ラップランド地方にあるストルマンス・コミューン(Storumans kommun)の小さな集落、エンサムヘーテン(Ensamheten)出身の女性アームレスラー、ヘイディ・アンデション(Heidi Andersson)の日常と競技生活を追った作品。彼女、1999年には東京で開催された世界大会にも出場している。競技に取り組むヘイディもすばらしいが、彼女のトレーナーでもある父親がユーモラス。また、下記の彼女の公式サイトが非常に詳しい。本作の監督・脚本はヘレーン・アールソン(Helen Ahlsson)とリーサ・ムンテ(Lisa Munthe)。アールソンは1972年生まれで、主にプロデューサーとしての仕事が多く、本作が監督としては第一作目。ムンテは1974年生まれで、これまでに主に短編映画の監督を数編手がけている。 『代理教師』(Vikarien: 2006) ストックホルム郊外にある中学で、「学級崩壊」したクラスをどうにもできない若い教師マックスが、73歳のベテラン教師フォルケに助けを求める。成立させることが難しい授業や、移民や難民としてやって来た生徒たち、学校の予算不足などスウェーデンの学校や教育を取り巻く現状がリアルに描かれている。本作はスウェーデン国内でずいぶん話題になったという。監督はオーサ・ブランク(Åsa Blanck)とヨーハン・パルムグレン(Johan Palmgren)。オーサ・ブランクは1970年生まれ、ヨーハン・パルムグレンは1967年生まれでどちらもルンド出身。共同で何本かのテレビドキュメンタリーを手がけている。下記公式サイトはスウェーデン語だが、本作の予告編などが観られる。 |
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『明日は分からない』(Om morgondagen vet man aldrig: 2006) この監督はキルシ・ネヴァンティ(Kirsi Nevanti)。貧しいアーティストのカップル、ポントゥスとマリーナを追った作品。監督の彼女は1960年、フィンランドに生まれ、19歳でスウェーデンに渡った。その後ストックホルムの国立映画学校で学び、短編を中心に多くの作品を手がけている。下記の彼女の公式サイトは英語だが、スチル写真を交えた本作の紹介をしている。 『アリスと私』(Alice och jag: 2006) スウェーデンの歯科医でセレブという、日本にもいそうなキャラクターのアリス・ティマンダーの90歳までの肖像を描く。それだけだと単純にちょっと面白いおばあさんの昔話か何かのように思われるかもしれないが、彼女は、自身の孤独や、愛について語る。本作のプロデューサーによれば、彼女は敬虔なクリスチャンだったという。監督のレベッカ・ラスムッソン監督(Rebecka Rasmusson)は、彼女について、監督自身の抱える問題も絡めつつ描いている。ラスムッソン監督は画家として出発、2004年にストックホルムの国立映画学校で修士号を取得。ドキュメンタリー作品を中心に手がける。なお、主人公のアリス・ティマンダーは、この夏に亡くなった。 |
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『私は犬が嫌いだ』(Jag hatar hundar: 2005) 1915年のトルコ人による大虐殺を逃れ、フランスに亡命したアルメニア人の最後の生き残りで、98歳になるガルビスの貴重な証言をまとめた作品。本作の監督、ペオ・ホルムクイスト(PeÅ Holmquist)は1947年生まれ。中東やヨーロッパを中心に撮り続けており、50本以上のドキュメンタリー作品を手がけている。下記の監督の公式サイトで本作以外のフィルモグラフィや最新作などが紹介されている。 『時は名前を持たない』(Tiden har inget namn:1989) ステファン・ヤール(Stefan Jarl)監督が手がけ、1989年開催の第一回山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞を受賞した作品。伝統的な農業を営む、老いた老夫婦を描き、効率優先の現代農業に疑問を呈した作品。彼は1941年、南スウェーデンのスカーラ(Skara)生まれ。ウプサラ大学で美学を専攻の後、スティーグ・ビョークマンやボー・ヴィーデルベルイ(231ページ)らのプロダクション・マネジャーをつとめる傍ら、ドキュメンタリー作品を手がけ始めた。『ショー・ミー・ラヴ』(140ページ)などで知られるルーカス・ムーディソン(214ページ)と共同で監督をつとめた作品などもある。 『スウェーデン短編選集』 このプログラムはスウェーデンの短編をセレクトしたもの。最近スウェーデンで製作された短編の中から、4作品を厳選して上映する。4本のうち3本までがドキュメンタリー作品なのだが、この3本はいずれもインタビューにもとづくアニメ作品である。どういうことかというと、顔を出せない話者の話に、アニメの画像をかぶせる、という手法をとっている。その3本の作品とは不法入国した少年たちのインタビューをCGアニメにした『身を潜めて』(Gömd: 2002)、グラフィティ・アーティストの3人の少女たちのインタビューをクレイアニメにした『ブルー、カーマ、タイガー』(Blue, Kalma, Tiger: 2006)、初めての性体験について、何人かの人にインタビューし、それをアニメで映像化した『初体験の思い出』(Aldrig som första gången: 2006)である。ほかにもう一本、1959年から71年までに撮影されたドキュメンタリーを素材にして編集、彗星衝突前の「地球最後の日」を描いた『彗星』(Kometen: 2004)という劇映画もある。それぞれの作品の監督名を紹介しておくと、『身を潜めて』がダーヴィッド・アローノヴィチ(David Aronowitsch)、ハンナ・ヘイルボーン(Hanna Heilborn)、マッツ・ヨハンソン(Mats Johansson)の3人。『ブルー、カーマ、タイガー』はセシリア・アクティス(Cecilia Actis), ミーア・フルテルスタム(Mia Hulterstam)の2人、『初体験の思い出』はヨナス・オデル(Jonas Odell)、『彗星』はヨハン・ローフステット(Johan Löfstedt)。 なお、『初体験の思い出』は、昨年のベルリン国際映画祭で短編部門のグランプリ、今年東京で行われたショートショートフィルム フェスティバルでも審査員特別賞を受賞した作品(本コラム19、20回参照)。 フィルムセンターでの上映会は本コラム筆者も何本か観たが、個人の内面に深く入り込んでいくような、非常に丁寧に作られたものが多い印象を受けた。どの作品もお_めである。ちなみにフィルムセンターでスウェーデン映画が特集されたのはなんと24年ぶりとのこと。スウェーデン映画に限らないが、もう少し北欧の映画もどんどん取り上げてほしいものである。 大阪ヨーロッパ映画祭公式サイト:http://www.oeff.jp/ 国立近代美術館フィルムセンター公式サイト:http://www.momat.go.jp/fc.html ヘイディ・アンデションの公式サイト(英語/スウェーデン語):http://www.heidiandersson.com/ 『代理教師』公式サイト(スウェーデン語):http://www.moderntv.se/vikarien/start.aspx キルシ・ネヴァンティ監督の公式サイト(英語/スウェーデン語):http://www.nevanti.com/ ペオ・ホルムクイスト監督の公式サイト(英語):http://www.peaholmquist.com/fi ステファン・ヤール監督の公式サイト(英語):http://www.stefanjarl.se/ |
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