この秋上映される北欧映画

[2007/11/4]

 暑かった夏も過ぎ、ようやく秋たけなわ、といったところだが、この秋は映画祭やオープンしたばかりの映画館などで、北欧作品の上映が目白押しである。事後報告になってしまうものもあるが、今回はこの秋上映の北欧作品をまとめてご紹介したい。まず、今観られるもの、これから観られるものからご紹介していこう。

スサンネ・ビーア監督作品『アフター・ウェディング』『ある愛の風景』の劇場公開
 デンマークの女性監督で、これまで『ワン・アンド・オンリー』(148ページ)、『しあわせな孤独』(174ページ)などが日本でも公開されている、スサンネ・ビーア(220ページ)の新作が2本、相次いで公開される。

 10月27日から公開されているのは、彼女の最新作で2007年度のアカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた『アフター・ウェディング』(Efter brylluppet: 2006)で、その1作前の作品、『ある愛の風景』(Brødre: 2004)も12月1日から公開となる。

 まず『アフター・ウェディング』。インドで孤児の援助活動をしているデンマーク人ヤコブの元へ、デンマーク人実業家のヨーアンから多額の寄付の話が舞い込んだ。寄付の条件については直接会って話したい、というヨーアンを尋ね、久しぶりに帰国したヤコブは、その週末に行われるヨーアンの娘アナの結婚式に参加するよう頼まれ、そこでヤコブのかつての恋人で、ヨーアンの夫となっていたヘレネと出会うのだが…。恵まれない人たちへの愛、男女の愛、家族への愛など、さまざまな愛のかたちを描く。

 主なキャストは、ヨーアン役にマッス・ミケルセン(214ページ)、ヤコブ役にロルフ・ラスゴート(212ページ)、ヘレネ役にシッセ・バベット・クヌーセン(227ページ)、アナ役にはアンデルセンを描いた作品、「Young Andersen」(Unge Andersen: 2005)などにも出演している1987年生まれのスティーネ・フィッシャー・クリステンセンら。北欧映画界を代表する、ベテラン女優/俳優が演じている。それからアイスランドのバンド、シガー・ロスらがフィーチャーされたサウンドトラックもなかなかよい。

 『ある愛の風景』は、2005年に埼玉県川口市で開催された「国際Dシネマ映画祭」や2006年に愛知県で開催された「あいち国際女性映画祭」でも『ブラザーズ』として上映されたもの。「国際Dシネマ映画祭」ではグランプリに輝いている(本コラム第41回参照)。アフガニスタンに派遣されたデンマークの兵隊の、帰国後を描く。

 どちらの作品も、この秋有楽町にオープンしたばかりの映画館、シネカノン有楽町1丁目(『アフター・ウェディング』)、シネカノン有楽町2丁目(『ある愛の風景』)ほかで全国順次ロードショーとなる。
 ちなみに、ビーア監督はこの今回公開の2作を含む過去の作品の評価の高さもあってかハリウッドに進出、その最新作「Things We Lost in the Fire」(2007)がアメリカで封切られたばかりである。

『アフター・ウェディング』公式サイト:http://www.after-wedding.com/
『ある愛の風景』公式サイト:http://aruai.com/
シネカノン公式サイト:http://www.cqn.co.jp/
『ある愛の風景』
大阪ヨーロッパ映画祭で「スウェディッシュ・ドックス」開催
 11月に開かれる第14回大阪ヨーロッパ映画祭では今年、最近のスウェーデンのドキュメンタリーと短編を紹介する「スウェディッシュ・ドックス」が開催される。近年スウェーデンで製作された長編6本、短編4本、計10本の多彩なドキュメンタリー作品が上映される貴重な機会なので、お見逃しなく。

 このイベント、同一のプログラムにより東京でも京橋の東京国立近代美術館フィルムセンターで「スウェーデン・ドキュメンタリー新作選」として上映された。詳細については本コラム第68回で紹介するので参照してほしい。

大阪ヨーロッパ映画祭公式サイト:http://www.oeff.jp/
東京国立近代美術館フィルムセンター公式サイト:http://www.momat.go.jp/fc.html

東京フィルメックスのオープニングで『それぞれのシネマ』上映
 11月17日から25日まで開催される映画祭、「第8回東京フィルメックス」では、カンヌ映画祭が60周年を記念して、世界の監督35人に依頼して製作した短編オムニバス作品『それぞれのシネマ』(Chacun Son Cinema: 2007)がオープニング作品として上映される。「映画館」を舞台に3分以内の作品を、という依頼のもと日本国内からも北野武監督が参加している。北欧からも、今年の東京国際映画祭のコンペにも参加した『エリック・ニーチェの若き日々』(後述)では脚本を担当しているデンマークのラース・フォン・トリアー(218ページ)、新作『街のあかり』(本コラム第60回参照)が日本で公開されたばかりのフィンランドのアキ・カウリスマキ(228ページ)、オムニバスの中の一編とはいうものの日本での作品公開は1993年の『愛の風景』(94ページ)以来となるビレ・アウグスト(233ページ)の3人が参加している。これら北欧の3人の監督の作品タイトルはトリアーが「Occupations」、カウリスマキが「La Fonderie」、アウグストが「The Last Dating Show」となっている。わずか3分ずつではあるものの、それぞれどんな作品に仕上がっているのか、楽しみなところである。

東京フィルメックス公式サイト:http://www.filmex.net/index.htm

東京国際映画祭にデンマーク作品が参加
 最後に、もう終わってしまったイベントから事後報告である。今年も10月20日から28日まで開催された「第20回東京国際映画祭」には、デンマークからコメディ作品『エリック・ニーチェの若き日々』(Erik Nietzsche de unge år: 2007)がコンペ部門に参加した。デンマークを代表する監督、ラース・フォン・トリアーが脚本を担当し、彼のデビュー前、映画学校時代を描いた半自伝的な作品である。1970年代後半のデンマーク。才能はあるがシャイな若者、エリック・ニーチェはデンマーク国立映画学校に入学。個性的な教授陣や同級生たちに囲まれ、その雰囲気になじめない彼だが、いよいよ卒業製作にとりかかることに。

 監督はヤコブ・トゥエセン(Jacob Thuesen)。彼は1962年生まれで、デンマーク国立映画学校で映画編集を専攻。これまでラース・フォン・トリアーやスサンネ・ビーアらの作品の編集を手がけている。監督作品としてはドキュメンタリー「Under New York」(1997)や劇映画でカンヌ映画祭参加作品「Accused」(Anklaget: 2005)などがある。主人公のエリック・ニーチェ役はヨナタン・スパン(Jonatan Spang)で、彼は1978年生まれ、この作品以外にも多くの作品に出演していて、上にも紹介した現在日本公開中の『アフター・ウェディング』でも演じている。ほかに『恋に落ちる確率』(184ページ)や昨年のベルリン国際映画祭の審査員特別賞受賞作「A Soap」(En Soap:2006)などに出演したダヴィッド・デンシック(David Dencik)、『イディオッツ』(135ページ)、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(156ページ)などにも出演したイェンス・アルビヌス(Jens Albinus)ら。下記公式サイトは英語だが、作品のあらすじ、スタッフやキャストのプロフィールが詳しく紹介されている。

 本作は当初、『幸せになるためのイタリア語講座』(160ページ)のローネ・シェアフィー(225ページ)が監督するようなアナウンスもあったのだが、諸事情によりこういう形になっている。本国デンマークでは年末に公開の予定。東京ではおしくも無冠に終わったが、本国でどのような反響があるだろうか。それから脚本を書いているラース・フォン・トリアーは、最新監督作「The Boss of It All」(Direktøren for det hele: 2006)が昨年公開されていて、今年のイェーテボリ国際映画祭でも上映されていた。ハイテク会社を舞台にした、こちらもコメディで、けっこう笑える作品なのだが、こちらの日本公開はいつなんだろう。

『エリック・ニーチェの若き日々』公式サイト(英語):http://www.theearlyyears-themovie.com/
東京国際映画祭の紹介ページ:http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=9#about
『エリック・ニーチェの若き日々』

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