フィンランドのファミリー向け作品がDVDで国内発売

[2006/9/18]

 フィンランドで2004年に製作された作品『ペリカンマン』(Pelikaanimies)がDVDで発売される。発売・販売元はオンリー・ハーツ。
 人間の手で生息地の環境を破壊されてしまった1羽のペリカンが、生物界でゆるぎない地位を得ている人間になってやる、と決意。ペリカンはオペラハウスに就職し、離婚して田舎からやってきた母親と一緒に暮らす少年エミルの住むアパートに部屋を借りる。ペリカンはオペラハウスのバレリーナに恋し、エミルはこのペリカンと友だちになる。そしてエミルの部屋の向いに住む少女エルサとも知り合うのだった。ペリカンは、エミルに文字を教わり、どんどん人間界の知識を吸収し、時に辛辣なメッセージを言い放つ。そしてペリカンとエミルとエルサの3人(?)は深い友情で結ばれてゆくのだが、ある日、ペリカンは鳥であることがばれて動物園へ連れて行かれてしまう…。

 映画はファミリー向け作品で、原作はフィンランドの人気作家レーナ・クルーン(Leena Krohn)。日本でも近年、彼女の大人向け小説がいくつか翻訳されているが、本作は1979年に刊行された児童文学である。日本でも1988年、新樹社より篠原敏武の翻訳で、「ペリカンの冒険」というタイトルで刊行されているので、お読みになった方も多いだろう。ちなみに、訳者の篠原さんはフィンランド国内ではレコードも出していて、その中の「雪の降る町を」がアキ・カウリスマキ監督の『ラヴィ・ド・ボエーム』(92ページ)のエンディングで流れている。この原作の方もフィンランド児童文学大賞を受賞、好評を博しているが、原作刊行から四半世紀にして、初の映画化となった。

 新樹社版の「あとがき」によれば、原作のタイトルは「Ihmisen vaatteissa」といい、直訳すれば「人間の服を着て」といった意味になるそうだ。映画のタイトルはフィンランドも日本も「ペリカンマン」となったが、映画の方をみても、この原作のタイトルにはなるほどと思われる方も多いのではないだろうか。

 映画を手がけたのはリーサ・ヘルミネン(Liisa Helminen)監督。彼女は、1950年にフィンランドのバルト海に面した古都、トゥルクで生まれた。ヘルシンキの美術大学を卒業後、アニメーションを含む30作品の監督、49作品の脚本、35作品のプロデュースを手がけている。本作は世界各地で好評を博し、シカゴ国際子ども映画祭最優秀作品賞をはじめ、多くの児童映画際で受賞した。

 また、撮影は多くのアキ・カウリスマキ作品を手がけていることで知られるティモ・サルミネン(225ページ)が担当。彼は本作でも、フィンランドのアカデミー賞に相当するユッシ賞の最優秀撮影賞にノミネートされている。音楽はトゥオマス・カンテリネン(Tuomas Kantelinen)が手がける。彼は最近の多くのフィンランド映画の音楽を担当していて、たとえば日本でも紹介された『フロントライン 戦略特殊部隊』(143ページ)や、「Elina: As If I Wasn't There」(180ページ)といった作品でも音楽を手がけている。

 キャストの方はペリカン役にカリ・ケトネン(Kari Ketonen)。彼は1971年生まれで、フィンランドの国内ではテレビや映画に、幅広く活躍している。エミル役はロニ・ハーラカンガス(Roni Haarakangas)。エルサ役にはインカ・ヌオルガム(Inka Nuorgam)で、それぞれ本作が長編劇映画デビュー作となった。エミルの母親役はリーサ・クオッパメキ(Liisa Kuoppamäki)で、フィンランド国内で活躍している女優だが、カウリスマキ監督の『過去のない男』にも出演している。

 主人公のペリカンは、原作の中ではなかなか芸達者で、オペラハウスでは合唱団に所属し、週に何度かは自作の曲をレストランで歌ったりもする。その辺が映画でどんなふうに表現されているだろうか。ファミリー向けの映画ではあるものの、鳥の世界から「人間界」に向けられたメッセージ性とかいったことも含め、いろいろと奥深そうな作品で楽しみである。下記の本作の公式サイトは英語かフィンランド語、スウェーデン語のものだが、予告編や作品の紹介だけでなく、ペリカンの生態について紹介したページなどもあって充実している。

 なお、DVDは9月22日発売。

ペリカン役のカリ・ケトネン(左)と
エミル役のロニ・ハーラカンガス(右)
フィンランド文学情報サイト(原作者レーナ・クルーンの紹介などがある):http://kirjojenpuutarha.pupu.jp/index.html
『ペリカンマン』公式サイト(フィンランド語、英語、スウェーデン語):http://www.pelikaanimies.fi/pelicanman/
オンリー・ハーツ公式サイト:http://www.onlyhearts.co.jp/

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