アニカ・トールによる映像作品(1) |
[2006/7/28] |
小社の新刊、「海の島」はお読みいただけただろうか? この作品は第二次世界大戦下、オーストリアのウィーンからスウェーデンへ避難してきた幼い姉妹の物語で、スウェーデンの作家、アニカ・トールの「ステフィとネッリの物語」四部作の最初の物語である。彼女の作品はティーンエイジャーを中心に幅広い層の読者に読まれている。 彼女は「海の島」の「あとがき」や著者紹介などにもふれられているように、物語の舞台となっているイェーテボリに生まれ、図書館の司書などを経て、ルーカス・ムーディソン(214ページ)やヨセフ・ファーレス(219ページ)をはじめとして多くの映画人を輩出している、ストックホルムの国立の映画学校、Dramatiska Instisutet(60ページ)を卒業した。そのため、これまでに文学作品だけでなく、映像作品の脚本などもいくつか手がける。日本でも公開されたものがあるので、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれない。また「ステフィとネッリの物語」四部作も彼女自身の脚本によってテレビドラマ化されている。長編の公開作品はいずれも、ファミリー向けの親しみやすいものばかりである。今回は、この四部作を含め、彼女に関係する主な映像作品について2回にわたって紹介したいと思う。 映画デビュー作 まず、1979年に映画学校の卒業製作として「Vi är kvar på våra platser」という短編を監督している。直訳すると「私たちは自分たちの場所にとどまる」という意味のタイトル。スウェーデン映画協会の資料によると、フィンランドのボスニア湾沿岸の北の町、ケミに暮らす、30人ほどの女性港湾労働者グループの仕事と日常を追った、ドキュメンタリータッチの作品のようである。 『ティーンズ・ゲーム』 その後もいくつかの短編作品の脚本などを手がけた後、1997年に公開された長編劇映画「Truth or Dare」(Sanning eller konsekvens)で脚本を担当。ちなみに、彼女の処女長編小説『海の島』の原著が刊行されたのは1996年なので、作家としてのデビューの方が早かった、ということになるだろうか。 この作品は、映画の公開と同じ年に刊行された同タイトルの彼女の小説が原作となっている。邦訳も『ノーラ、12歳の秋』というタイトルで2002年に小峰書店より刊行されている。映画の方も、1999年のあいち国際女性映画祭において『ティーンズ・ゲーム』の邦題で公開された(29ページ、下記のサイトで本作のスチルや日本語の簡単な紹介などを見ることができる)。12歳の少女たちを等身大で描いたティーン向けの作品。監督はクリスティーナ・オーロフソン(Christina Olofson)で、撮影はロベルト・ノルドストレム(Robert Nordström)である。オーロフソン監督はこの後も多くアニカ・トール脚本で作品を手がけている。撮影のノルドストレムもオーロフソン監督作品を多く手がけるほか、『世界の果てのビートルズ』の映画化作品「Popularmusic」(Populärmusik från Vittula:本コラム第24回参照)なども手がけている。 主人公のノーラ役を演じたのはトーヴェ・エドフェルト(Tove Edfeldt)で、彼女は1983年に生まれ、ラッセ・ハルストレム監督(220ページ)の『やかまし村の子どもたち』(Alla vi barn i Bullerbyn:1986)のシャスティン役でデビューしている。彼女の母親が当時、この映画の助監督で、たまたま連れて来られていた彼女が監督の目に留まって出演することになったという。他に、『ショー・ミー・ラヴ』(140ページ)にエリン役で出演したアレクサンドラ・ダールストレム(Alexandra Dahlström)や、『ゴシップ』(162ページ)などにも出演しているスサンヌ・ロイテル(Suzanne Reuter)らが演じた。この作品、1998年のベルリン国際映画祭では、クリスタル熊賞の審査員特別賞に選ばれている。 「Touched by an Angel」と「A Different Way」 続いて、2001年には、スウェーデンの作家、エルシー・ヨハンソン(Elsie Johansson)の作品「Touched by an Angel」(Kattbreven)をトール脚本、オーロフソン監督、ノルドストレム撮影で映画化している。原題は日本語に訳せば「猫の手紙」となるこの作品だが、原作は1991年に出ている。事情があって飼い猫を残し、田舎へ引っ越した少女の物語だ。 この作品の原作者ヨハンソンは1931年生まれで、彼女の作品は邦訳されてこそないものの、1979年にデビューの後、スウェーデンではこれまでに20ほどの作品が刊行されている。映画の方は、『歓びを歌にのせて』(本コラム第4回参照)にも出演したバルブロ・コルベリ(Barbro Kollberg)、『ボクとママとおまわりさん』(150ページ)にも出演したクリスティーナ・ステニウス(Christina Stenius)らが出演している。 2003年には、ペール・ニルソン(Per Nilsson)原作の「A Different Way」(Hannah med H)を、原作者と共同で脚本を担当した。オーロフソン監督、ノルドストレム撮影、というコンビも変わらない。18歳になって家を出たハンナが、謎の男イェンスと出合い、アンドレアス、ボスニアからきたエディンら新しい友人もできるが、ある深夜、彼女に奇妙な電話がかかってくる…。 この作品は、ニルソンの「Ett annat sätt att vara ung」(直訳すれば、「若くあるための別の方法」という意味)という2000年に出された小説が原作。原作者の彼は1954年生まれで、邦訳作品はないが1986年に作家デビュー、スウェーデンでは2004年までに20タイトルほどの作品が刊行されている。主役のハンナを演じたのは、『ティーンズ・ゲーム』でも主演したトーヴェ・エドフェルト。ほかに、ウルフ・マルムロス監督(29ページ)の最新作「God Save the King」(Tjenare kungen:2005)にも出演したヨエル・キンナマン(Joel Kinnaman)らが演じる。また、音楽を担当しているのはThe Knifeという2人組のテクノ・ユニットで、この映画が公開された同じ年に、スウェーデンのグラミー賞で最優秀ポップグループに選ばれている。 なお、下の公式サイトでは、映画の予告編やスチル写真などをみることができる(OM FILMENの中のfoton & trailerをクリック)。 そして、この次の作品が『海の島』のシリーズになるのだが、それは後編で紹介しよう。 |
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あいち国際女性映画祭'99公式サイト:http://www.will.pref.aichi.jp/main03/eiga99/mainpro.html#teens 「Hannah med H」(A Different Way)公式サイト(スウェーデン語):http://www.cqn.se/hannahmedh/hannah.htm |