「アイスランド映画祭」上映作品の紹介(2)

[2006/2/14]

 今回は、本コラム第16回に引き続き、「Bíó'06 アイスランド映画祭」の作品を紹介しよう。16回では映画祭の「PART1」を紹介したが、今回は「PART2」。PART2は「アイスランドの歴史、文化、政治を、ヴァイキング時代からいまのレイキャヴィーク・シーンまで描く映画群で縦横無尽に!」というテーマで、新旧おりまぜ、ドキュメンタリーや短編を含むバラエティに富んだ7本がラインナップされている。PART1とあわせ14本だが、ほかに2本の上映があるそうで(1本は「サプライズ上映」)、合計16作品が紹介される予定。

 PART2は「アイスランド万華鏡」と銘打ち、さまざまなアイスランド映画を紹介する、というのがコンセプト。製作年代の古いものから紹介していこう。

 まず、『大鴉が飛ぶとき』(Hrafninn flýgur:1984)は、フラヴン・グンラウグソン(Hrafn Gunnlaugsson)監督作品で、ヴァイキングの時代を描いた映画である。アイルランドに略奪しにやって来た、アイスランドのヴァイキングに両親を殺され、姉妹を奪われた少年が、長じて復習のためアイスランドへ向かう、というストーリー。スウェーデンとの合作で、スウェーデンのアカデミー賞にあたるグルドバッゲ最優秀監督賞を受賞している。グンラウグソン監督は、この作品以外にも多数のヴァイキング映画を手がけており、それらは「アイスランドの西部劇」みたいな意味あいで「タラ(Cod)・ウェスタン」などと呼ばれることもあるらしい。

 『イキングット』(Ikíhgut:2000)は、ギスリ・スナイル・エリンソン(54ページ)監督による、ファミリー向けの作品。ある日、アイスランドのある小さな村に、氷山に乗ってエスキモーの少年がやって来る。冬のアイスランドの厳しい自然のなか、この少年と村の子供や大人たちとの間でおこった出来事や交流を描いた、友情の物語である。主演のイーキングット役はグリーンランドのイヌイット、ハンス・ティットッス・ナキング(Hans Tittus Nakinge)で、ほかに『キッチン・ストーリー』(178ページ)にも出演しているビョルン・フロベリ(217ページ)、監督の前作『ベンヤミンの夏』(117ページ)にも出演しているパルミ・ゲスツソン(Pálmi Gestsson)らがキャスティング。なお、本作品は2003年にDVDが国内発売されている。

 『101レイキャヴィーク』(101 Reykjavík:2000)は俳優としても活躍するバルタザール・コルマキュル(31ページ)によるブラック・コメディ。ちなみに101はアイスランドの郵便番号で、レイキャビクの中心街である。つまり、アイスランドの中ではいちばん何でもあるし、流行の最先端の場所でもある。そのためここに閉じこもる人々もいて、そんな中の一人フリヌルが、レズの女性と一夜をともにしたことから彼の生活がかわってゆく、というストーリー。フリヌル役を本映画祭の「PART1」で上映されるフレゼリクセン監督の作品『エンジェル・オブ・ザ・ユニヴァース』や同監督の短編『氷の愛撫』(129ページ)にも出演したヒルマー・スニア・ガドゥナソン(Hilmir Snær Guðnason)が演じる。ほかにレズの女性ローラ役に『ハイヒール』(Tacones lejanos:1991)スペインの女優ヴィクトリア・アブリルらが出演。日本初公開。
『101レイキャヴィーク』
 『フレンムル』(Hlemmur:2002)はドキュメンタリー作品。主にドキュメンタリーの世界で活躍するオラヴル・スヴェインソン(Olafur Sveinsson)が手がけた。レイキャビク中心部にあるバスターミナルに寝泊まりするホームレス、スヴェインソンへのインタビューを中心に構成。他の北欧諸国と同様、福祉制度の完備された「理想国家」とも見えるアイスランドだが、その見えざる部分の記録である。音楽で近年日本でも人気のあるアイスランドのバンド、シガー・ロスが参加。日本初公開。今回の上映では、シガー・ロスのプロモーションフィルムも併映される。

 『アフリカ・ユナイテッド』(Africa United:2005)もドキュメンタリー作品で、アイスランドでドキュメンタリーフィルムのプロダクション(Poppoli Pictures:下記アドレス参照)を設立したオーラフ・デ・フルル・ヨハンネスソン(Olafur de Fleur Johannesson)が監督。モロッコからの移民ジーコが、サッカーチームを結成しようとアイスランド全土の移民たちへ呼びかけた。集まったのはモロッコ、ナイジェリア、コロンビア、セルビア、コソヴォ、ガンビア、ギニアといった国々からの面々。彼らのチーム「アフリカ・ユナイテッド」は弱かった…。映画を通じ、他のヨーロッパ諸国と同様、アイスランドの移民国家としての側面もかいま見える。昨年開催された「山形国際ドキュメンタリー映画祭2005」インターナショナル・コンペティション上映作品。

 『農夫ジョンの世界』(Heimur Jóns bónda:2004)は5分の短編アニメーション。監督のウナ・ロレンゼン(Una Lorenzen)はアイスランド美術大学の学生。18世紀のアイスランドの農夫が描いた絵物語を彼女がアニメ化した。北欧5ヶ国を巡回する映画祭、「ノルディスク・パノラマ2005」で短編部門に出品。日本初公開。

 『スカーガフョルズル』(Skagafjörður:2004)は、アメリカの写真家、ピーター・ハットン(Peter Hutton)による実験映像。アイスランド北西部にあるスカーガフョルズルの景観を、静かなカラーとモノクロ映像のコラージュで表現。ハットンは、1944年デトロイト生まれ。サンフランシスコ芸術学院で絵画、彫刻、映画を学び、ニューヨークのハドソン川を撮った「Study of a River」(1997)など、数々の実験的な映像作品を手がけている。日本初公開。なお、今回の上映ではライブ音楽付きでの上映が予定されている。

「PART1」で新たに上映が決まった作品『ナイスランド』
 また、第16回では未定だったフリゼリック・トール・フレゼリクセン(217ページ)監督作品が1作品、上映が決定したのでこちらも紹介する。この『ナイスランド』(Næsland:2004)は、精神に障害を負ったカップルの物語。20代前半のジェドとクロエは愛し合っていたが、クロエがジェッドと同じくらい大切にしていた飼い猫が突然事故で死ぬ。それをきっかけに、彼女は沈黙の中に閉じこもり生きる意思を失う。ジェッドは彼女を救うため、「生きることの意味」を探す旅に出て、マックスと出合う…。ジェッド役には『SWEET SIXTEEN』(2002)でリアム役を演じたマーティン・コムストン(Martin Compston)、クロエ役に『101レイキャヴィーク』に出演しているグドゥルン・マリーア・ビャルナドッティル(Guðrún María Bjarnadóttir)、マックス役に『リトル・ダンサー』(Billy Elliot;2000)でビリーの父親役を演じたゲイリー・ルイス(Gary Lewis)らをキャスティング。英語圏の俳優を多く起用した英語作品となっている。また、撮影は『ゼイ・イート・ドッグス』(151ページ)、『しあわせな孤独』(174ページ)なども手がけたデンマークのモーテン・セーボリ(Morten Søborg)が担当している。本作はフレゼリクセン監督最新作の日本初公開。また、上映後には監督本人を交えてのティーチ・イン(Q&A)も予定されている。
Poppoli Pictures(英語):http://www.poppoli.com/
映画祭公式サイト:http://www.bio06.jp/
ユーロスペース:http://www.eurospace.co.jp/
神戸アートビレッジセンター:http://kavc.or.jp/

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