第22回平和・協同ジャーナリスト基金賞推薦図書
『《原爆の図》全国巡回―占領下、100万人が観た!』 岡村幸宣著(新宿書房・2015年刊) 推薦文
 
「人間の歴史上、多くの人の目に触れた絵画は数あれど、おそらく《原爆の図》ほど数多くの街に移動して展覧会が開かれた作品は、他にないだろう」(著者「あとがき」)。

その「原爆の図展」は、「原爆被害の報道が禁じられていた占領期にはじまり、サンフランシスコ講和条約発効と原爆表現の解禁をピークに、原爆の惨禍を伝える存在として国内各地に広がっていった」(p226)のでした。本書は、1950年から53年までの約4年間に、北は北海道から南は鹿児島まで、展覧会は170ヵ所を数え開催日数は600日以上、約170万人が観たと推測される「原爆の図展」の軌跡を追った記録です。

第1章《原爆の図》の誕生から、第6章旅する《原爆の図》の各章まで、巡回展の軌跡を追う記録は克明です。終章の終わらない旅では、原爆の図の世界行脚、米国巡回展の記録も記述され「そして旅は続く」との見出しが掲げられています。

「《原爆の図》を観る人は、ほとんど等身大に描かれた被爆者の群像に向き合い、絵に包み込まれるような体験をする」「そのとき、心のうちに何が生まれるかは、人それぞれ違うだろう。ある人は「反戦平和」の思いを新たにし、ある人は思わぬ絵の「美しさ」に感嘆する。――それでいい、と思う。時代の変化や観る者の意識に応じて《原爆の図》はさまざまなかたちで想像力に揺さぶりをかける」

著者は、終章でこのように記し、「この絵画に出会ったことで、みずからの「生」を見つめる視点が変わったという人が、時代や国境を超えて、どれほど多くいるだろうか」と問いかけています。

もう一つ本書の特色と言えるのが、本文組版など本の作り方です。

行の字詰めの下段に空白を置き、本文の説明事項、人名などの注記は該当見開きの左ページに配置、関連する写真などの掲載があっても下段の空白によって、視野の圧迫を和らげ、柱の位置をノド側に寄せ下段に置くなどの工夫もあり、見事な組版です。目次や扉、巻末掲載の「巡回展の記録」年表などで使用されている網版印刷が本の純度を高めるものになっています。


推薦者 山村茂雄
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